前頭葉症候群

Ⅰ.定義
 前頭葉の損傷により前頭葉が障害されることである。田川ら1)によると前頭葉は「認知や注意、判断、記憶、学習、さらには性格、意欲、行動などと広く関連しており、人間としての存在における最高次の統合の座であり、その障害により多彩な精神症状や高次脳機能障害が出現」するとされている。


Ⅱ.特徴
 前頭葉は他の大脳皮質、基底核辺縁系脳幹網様体などと繊維連絡されるため、前頭葉の損傷は他の部位の機能が関係する可能性がある。また、他の領域と比較すると局在が漠然としたものとなっている2)。
 よって、前頭葉症候群では、多様で他の部位の機能と関連する症状が出現し、局在が曖昧なために前頭葉に特異的なものであるとすることが困難なことが多いとされる。


Ⅲ.各々の症状
 前頭葉の症状として指摘されている症状を以下にまとめた。

1.運動・行為障害
 失行とは異なり、行為遂行の抑制の異常による症状が出現する。
 脱抑制としては、把握反射、本態性把握反応、他人の手徴候、運動保続、反響現象、利用行動がある。また、前頭葉性の脱抑制ではない障害としては運動開始困難がある。
2.遂行機能障害
 複雑な課題に対して保続的な反応を示し遂行困難となる障害である。
 遂行機能とは、目標の設定、計画の立案、実際に行動すること、効果的な行動をとることが必要である。その能力は動機付け、行動の評価、選択、行為の正しい順序の選択、行動の維持、中止、自己修正能力など多くのものが必要とされるが、この能力に障害が起こる。
 日常生活では「料理を作る、銀行で振り込み手続きをする、旅行の計画を立てる」などといった活動がうまく行えなくなる。
3.人格情動障害
 情動の制御が困難となる障害で社会的行動障害、意思決定の障害が出現する。「知的障害のない脱抑制、易刺激的で特徴づけられる人格変化」3)が起こる。不遜、きまぐれ、責任感を持たないなどの人格変化がある。
4.発動性障害
 運動の減退、開始の遅延が起こる。重度では無動―無言状態となる。
5.前頭前野―皮質下症候群
 前頭前野と皮質下の諸核との繊維連絡が障害されることにより、皮質下痴呆が出現するとされている。皮質下痴呆は明確な失語、失行、失認、健忘症を伴わないが「①失念(想起困難)、②思考過程の緩徐化、③人格―情動症状(多くは無気力ないし抑うつ、時に多幸、易刺激性、病的泣き・笑い、④獲得した知識を操作することの困難性)」4)が出現するものである。
6.健忘・作話症状
 前脳基底部およびその周辺の損傷にて病識を伴わない健忘症、作話が生じるとされている。作話は自発的空想的であることが多い。


これらの症状の他にも運動麻痺、尿失禁等が前頭葉症状に上げられている。



引用文献
1)2)田川皓一,佐藤睦子:神経心理学を理解するための10章.新興医学出版,2004,pp171
3)坂村雄:感情・人格の障害.よくわかる失語症高次脳機能障害,永井書店,2003,pp432
4)森山泰,加藤元一郎:前頭葉症候群.高次神経機能障害の臨床,新興医学出版,2002,pp53