坂村雄:感情・人格の障害.よくわかる失語症と高次脳機能障害:428−435,2004

歴史
・Mayer(1904)は、既に脳損傷によってもたらされる感情障害は、心理社会的な要因と生物学的な要因の組み合わせによって生じる可能性を指摘する一方、せん妄、痴呆などと特定の局在性脳損傷、あるいは原因との関連性についても述べている。
・Babinski(1914)が右半球障害例ではしばしば病態失認、多幸、無関心といった症状を示すことを記載している。
・Kraepelin(1921)は躁うつ病が脳血管障害に頻回に生じることから、動脈硬化症が原因となりうることを指摘し、
・Bleuler(1951)も抑うつ気分が脳梗塞後数ヵ月以上にわたって続くことがあることを記載している。
・Goldstein(1939)は、感情障害が脳疾患と特に関連したものであり、破局反応(catastorophic reaction)であると初めて記述した。
・Gianotti(1972)は、左右脳損傷における、感情障害を初めて詳細に検討し、うつ的な破局反応は左半球損傷、特に失語を伴う例で多くみられることを報告している。

右半球損傷における情動の認知、表出の障害
・Heilman(中略)右の側頭頭頂損傷例で、声の抑揚による感情表現の認知が障害されることを報告している。

情動の病的な表現
脳卒中後には病的泣き笑い、感情失禁といった、過剰に表出された状態、あるいは体験と情動の乖離された、病的な情動表現がみられる。臨床的には一般によくみられるものであるが、その責任病巣についての研究は少ない。しかし、側頭葉てんかん患者の部分発作として、泣き発作や笑い発作が観られることから、なんらかの辺縁系回路の機能障害が推測される。