高次聴覚機能障害の種類と鑑別

田中美郷:高次聴覚機能障害の種類と鑑別.失語症研究12:118〜126,1992


高次聴覚機能障害の鑑別:伝音系でないことを証明→気導聴力と骨導聴力の比較


一つの音源から音が左右の耳に達するときには,わずかながらも時間差と音圧差が生じる。これらの情報は上オリーブ核レベルで処理されて,音源の方向が分析・合成され,高次レベルにおける空間認知の基礎情報となる。
p.118

人間の高次聴覚機能には少なくとも次の
 言葉の知覚・認知のコード系
 音楽の知覚・認知のコード系
 環境音の知覚・認知のコード系
 空間の知覚・認知のコード系
が並列的に存在し,それぞれに階層性構造があって,さらにこれら4者の上位にこれらを総合する形で高等な認識活動のレベルがあると考えることができるように思う。
P.119

環境音は言語音のように抽象化された記号と異なり,音源を直接代表して具象的といえる。Pavlovの言を借りれば言葉は第二信号系の信号であるのに対し,環境音は第一信号系の信号といった違いがある。
p.124

有田秀穂:「笑い」と「泣き」の生理学的背景.OTジャーナル41:14-23,2007

 前頭前野への入力は頭頂・側頭葉の連合野から視覚性・聴覚性情報として伝達され,前頭前野で笑いの認知的判定が下されると,その出力は,運動野を介するのではなく,線条体扁桃体辺縁系を介して,笑い声や表情を形成する脳幹の中枢へと送られる.

 笑いの回路には2つの独立したものが存在する.1つは,先天的,情動的な笑いを担う回路で,古い脳である帯状回前部が中心的役割を果たす.もう1つは,後天的,認知的な笑いを担う回路で,前頭前野が指令を発する.
 笑いの出力回路は,最終的に脳幹の笑い声や顔面表情を担う中枢に達するが,その途中に小脳が介在して,笑い発現を状況に合わせて微調整する役割を担っている.


 涙腺は,脳幹の上唾液核から顔面神経を介して,副交感神経性の制御を受ける.すなわち,涙が流れるときには,自律神経のバランスは副交感神経側にシフトしていることになる.


 一般にストレス状態は,交感神経の緊張が非常に亢進した状態であり,短期的には,交感神経アドレナリン系の活動亢進であり,長期的には視床下部・下垂体・副腎皮質軸(HPA軸)の賦活が認められる.他方,号泣状態では,自律神経のバランスが一時的に副交感神経優位の状態にシフトしていることになる.すなわち,号泣は,ストレス状態にある脳(交感神経緊張状態)を一時的にリセットさせる効果が期待される.



 泣きのビデオの前後で,POMS心理テストを実施すると,混乱および緊張・不安の尺度が改善した.これは,自覚的には「スッキリした」という気分によく対応するものと解釈された.

 笑いは,スッキリ感というよりは,元気にするという,ストレス緩和に対する質的な違いが推測された.

坂村雄:感情・人格の障害.よくわかる失語症と高次脳機能障害:428−435,2004

歴史
・Mayer(1904)は、既に脳損傷によってもたらされる感情障害は、心理社会的な要因と生物学的な要因の組み合わせによって生じる可能性を指摘する一方、せん妄、痴呆などと特定の局在性脳損傷、あるいは原因との関連性についても述べている。
・Babinski(1914)が右半球障害例ではしばしば病態失認、多幸、無関心といった症状を示すことを記載している。
・Kraepelin(1921)は躁うつ病が脳血管障害に頻回に生じることから、動脈硬化症が原因となりうることを指摘し、
・Bleuler(1951)も抑うつ気分が脳梗塞後数ヵ月以上にわたって続くことがあることを記載している。
・Goldstein(1939)は、感情障害が脳疾患と特に関連したものであり、破局反応(catastorophic reaction)であると初めて記述した。
・Gianotti(1972)は、左右脳損傷における、感情障害を初めて詳細に検討し、うつ的な破局反応は左半球損傷、特に失語を伴う例で多くみられることを報告している。

右半球損傷における情動の認知、表出の障害
・Heilman(中略)右の側頭頭頂損傷例で、声の抑揚による感情表現の認知が障害されることを報告している。

情動の病的な表現
脳卒中後には病的泣き笑い、感情失禁といった、過剰に表出された状態、あるいは体験と情動の乖離された、病的な情動表現がみられる。臨床的には一般によくみられるものであるが、その責任病巣についての研究は少ない。しかし、側頭葉てんかん患者の部分発作として、泣き発作や笑い発作が観られることから、なんらかの辺縁系回路の機能障害が推測される。

有田秀穂:絵画と脳(3)模写機能.臨床神経科学,2006


 模写機能の障害は主に両側頭頂葉病変によって引き起こされることが臨床では知られている.一方,健常人で模写課題を行ってfMRI画像を調べると,両側頭葉領域だけではなく,両側の復側運動前野(BA44野)も賦活される.復側運動前野のうち,優位半球(左半球)側のものはBroca運動性言語中枢に相当する.このことを考慮すると,描画機能は,言語機能と同じようにコミュニケーションとして働くもの,として注目される.

菊谷武編著「介護予防のための口腔機能向上マニュアル」2006,健帛社②

医療モデルにおいては,プログラムの効果として,後に述べる機能の評価において向上がみられ(例えば,RSSTの回数が増加したなど),その結果,摂食・嚥下障害が軽症化や治癒に向かったということが求められる。一方,生活機能モデルにおいては,機能評価において向上を示した事実よりも,介入の結果,「食事がおいしく食べられ,楽しい生活が送れるようになった」などといった,生活に根ざした結果が求められる。

p.26


口腔機能向上訓練にあたって下記の要件等を満たす場合においては,参加者の訓練の実施を中止すべきである。
① 介護認定において要支援,介護度1と認定された人の原因疾患は,脳血管障害,パーキンソン病などの脳疾患,転倒・骨折,関節疾患,高齢による衰弱であり,偶発的な転倒による骨折や頭部外傷,心筋梗塞狭心症などの虚血性心疾患,脳血管障害の発生のリスクも高いことから十分な注意が必要である。
② 訓練開始にあたり当日の体調を十分聴取し,本人が健康不安を訴える場合やバイタルサイン(血圧や脈拍など)の評価の結果,問題ありとされた人には,当日のプログラムの参加を躊躇なく中止すべきである。
③ 整形外科的疾患(頚椎症など)で首の前後屈運動などが禁止されている人には,頸部の運動訓練を行わない。
④ 小脳症状をもつ疾患(脊髄小脳変性症など)をもつ人には,首の旋回運動や後屈運動によってめまいを生じることがあるので行わない。

p.27


食事時間
摂食・嚥下機能が低下すると食事時間の延長がみられる。一口量の減少に加え,これを嚥下するために数度の嚥下を繰り返す必要に迫られることなどが原因となる。食べる際の注意の集中と持続の低下が原因となることもある。食事時間の延長は疲労の原因になり,誤嚥や窒息のリスクが高まる。嚥下機能や咀嚼機能に合わせた食形態が提供されているか検討する必要がある。

p.41


高齢者の約40%が口腔乾燥感やこれに関連した症状を自覚しているといわれている。一般に加齢による唾液分泌量の減少がこれらの訴えにつながっているとされていたが,一概に加齢によって唾液分泌量が減少するとはいえないようである。
(略)
すなわち,高齢者における唾液分泌の減少は,服用薬剤や咀嚼障害による修飾を受けること,特に,咀嚼する際に分泌される咀嚼刺激唾液は咀嚼障害の影響を受けること,さらに,高齢者が安静時に訴える口腔乾燥感は安静時総唾液量の多くを占める顎下腺の分泌量低下と口蓋の乾燥が原因である可能性が大きい。

p.73


正常な歯列を有する人の咀嚼をする能率を100とした場合,1歯欠損した人の場合その能率は約半分に低下し,多数歯欠損(2〜7歯の欠損)を示す人の場合,7割近く低下することがわかっている。また,総義歯装着患者の咀嚼能率は,わずか35.9%であったという。意外に低い値であることに驚かれるであろう。この結果,歯の欠損ととおに,かむことができない食品はかたいものを中心に多くなり,喪失歯が8歯を超えると,急激に増加することが明らかとなっている。また,歯の欠損が多くなると,野菜や肉類などを食べにくくなるために,食物繊維やビタミン類,鉄の摂取量が低下することが多くの研究で示されている。

p.77

菊谷武編著「介護予防のための口腔機能向上マニュアル」2006,健帛社①


 なかでも,要支援,要介護1と認定された比較的軽度の高齢者の伸びは大きく,要支援は136%増の686万人,要介護1は145%増の135万人に達し,介護認定を受けた人の約半数を占める。
(中略)
国民の支払う保険料も高騰化し,全国平均月額2,911円であった保険料が,2006年4月以降は4,300円になるとも予想されている。

p.1


今回導入される介護予防の考え方は,この廃用性症候群に対する取り組みであり,生活機能の低下が軽度である早い時期にリハビリテーションを行うことで,日常の活動性を向上させることを目的としている。つまり,自立しているADLは自分で行い,介護を要する場合でも過剰な介護を避け,家事や趣味等の活動や社会行動等でもできることは積極的に行い,生活全般を活発化させ,社会活動範囲を拡大させることが重要であるとしている。

p.5


地域に新設される「地域包括支援センター」では,高齢者の生活機能等がチェックされる「基本チェックリスト」と呼ばれるものを用いて,スクリーニングやアセスメントを通して,ケアマネジメントが行われる。

p.7


口腔ケアという用語には,広義と狭義の意味がある。
広義には口腔のもっているあらゆるはたらき(咀嚼,嚥下,発音,呼吸など)を介護することを意味する。
狭義では口腔衛生の維持・向上を主眼に置く一連の口腔清掃を中心とした口腔ケアを指す。

p.9


特に,経口摂取を行っていない高齢者やペースト食などのほとんどかむことを必要としない食物を摂取している高齢者は,口の動きが制限される。さらに,唾液の分泌も少なくなるために,この自浄作用による清掃効果がほとんど期待できなくなる。その結果,口腔内の汚れは悪化し,細菌数の増加,いわゆる悪玉菌の増加が認められるようになる。

要介護高齢者の口腔清掃の自立度にかかわる3つの構成要素(歯磨き:brushing・義歯着脱:denture wearing・うがい:mouth rinsing)が低下したとき,口腔内の環境は一気に悪化する

p.11


継続的な口腔ケアを行うことで,誤嚥性肺炎の予防に有効であるということは,研究によって明らかになっている。これらの結果は,口腔ケアによって肺炎発症を40%減少させること,さらに,肺炎による死亡率を50%に減少させることを示しており,「介護予防」における口腔ケア(口腔機能向上)の地位を不動のものにしている。

p.15


口腔清掃を中心とした口腔ケアは,感染源対策としての細菌の除去ばかりでなく嚥下反射や咳嗽反射を活性化する感染経路対策としても有効であることが示された。

p.16


在宅要介護高齢者に対する調査では,対象者の約10%がこの1年間に窒息の経験をもっていた。窒息の原因となった食物は多い順に,ご飯,肉類,果物や野菜であった。

p.20


口腔ケアの目的は「気道感染予防」であるということを意識づける必要がある。

p.24

岩村吉晃:タッチ<神経心理学コレクション>,医学書院


大性感覚の定義は,最も狭義の身体感覚に相当し,「身体の表層組織(皮膚や粘膜)や,深部組織(筋,腱,骨膜,関節囊,靭帯)にある受容器が刺激されて生じる感覚」です。
P.5

Gibsonは,「知覚システムとしての感覚」という著書のなかで,感覚をアリストテレスに始まった五感に区分する考え方は不十分であるとしました。固有感覚が含まれないことと,もっと重要なのは五感が受身でなく能動的に働く時に起こるある種の体験が含まれないこと,などがその理由でした。
P.17

マイスナー小体(RAⅠ)は2〜9本の神経に支配されています。接触した物体のエッジの鋭さ,点字のようなわずかな盛り上がりなどの検出に優れています。メルケル細胞(SAⅠ)は垂直方向の変形によく応答し,皮膚に接触した物体の材質や形を検出するのに適しています。パチニ小体(RAⅡ)の受容野は大きく,手のどこかに加わった刺激にも応答するほど感度がよい受容器です。その興奮は振動感覚を起こします。ルフィニ終末(SAⅡ)は受容野の境界があまり明快でなく,四肢の長軸に沿って細長く,局所的な圧迫に応じるほか局所的あるいは遠方からの皮膚の引っ張りに応答します。
P.27

運動感覚には,①四肢の動きの感覚(sense of movement),②四肢の位置の感覚(position sense),③筋の力の感覚(sense of muscular force),努力感(sense of effort),重さの感覚(sense of heaviness)などがあります。
P.32

マッハ(E.Mach,1838〜1916)は脳卒中になり,運動麻痺が起こると努力感が増すことをみずから体験しました(1886)。
P.32


疲労により,力を一定に保つのが困難で,重く感じる理由は次のようなものです。
疲労は神経筋接合部より抹消で起こるので,力を維持するには,より多くの運動単位を動員しなければならず,より多くの中枢指令が必要になる。
② 増加した努力は他の筋にも広がる。
疲労時には随意収縮による筋紡錘の発火が減り,これによる運動ニューロンへの促通が減少する。
④ 細い筋神経(groupⅡ,groupⅢ繊維)の感受性が増大し,運動ニューロンはこれによって抑制される。
⑤ 筋の痛みを起こす神経が疲労感を信号化する可能性がある。
 こうして筋の収縮,弛緩の割合が減少,すなわち筋の働きが悪くなり,関節位置のマッチングが変動しやすくなり成績が落ちます。そしてやる気がなくなり,注意力が落ち,震えが起こるのです。
P.41

彼は大脳皮質が,感覚投射繊維を受容する部分(投射野)と受容しない部分に分かれていること,成熟の過程で感覚投射野の繊維がより早く髄鞘化し,これが近接領域に送りこまれること,近接領域からは,やがて対側へ交連繊維が送りこまれることなどを見出し,感覚投射野に近接し髄鞘化の遅い皮質部分を連合野と呼びました。
P.61




大脳皮質の再現地図は,注意,痛みなどによって影響を受けることが分かりました。

P.89

再現地図に現れるこれらの変化がどんな神経機構にもとづいているかもいろいろ議論されました。短時間で起こる変化は,すでに存在する神経支配が側方抑制機構によって互いに抑制しあっていたはずのものがはずれて顕在化したと考えられます。

P.89

長時間かかって起こるものには,長期増強(long−term potentiation:LTP)などのシナプス伝達の強化,神経軸索側枝の発芽などの可塑的な機序があると主張されました。

P.89

皮質再現地図の再構成の問題は,学習や記憶の仕組みとの関連性で興味がもたれているのですが,抹消神経切断で地図に変化が起こるとしてもこれは異常な事態であり,学習や記憶と一緒にこれを脳の可塑性の問題として扱うのには強い批判があります。

P.89


痛みに関係する大脳皮質部位は広範囲にわたり,第一,第二体性感覚野,島,帯状回,さらに頭頂連合野(下頭頂小葉,7b野),前頭前野内側部,補足運動野などが痛みに関係あるとされています。これらの領野は互いに結合してネットワークを構築し,痛み刺激の引き起こす多彩な脳活動にかかわっていると考えられます。

P.101


島の電気刺激により,内臓感覚,異常な体性感覚,恐れの感覚などが起こることが報告されています。一方,破壊では,痛み刺激あるいは威嚇に対し過剰反応するなどが知られています。この領域は扁桃核などの辺縁系に投射しますから,ここが痛みの記憶に重要である可能性があります。

P.105

PETによる実験で,熱痛覚刺激,エタノールの皮内注意で島の血流増加が報告されました。振動刺激と比較した時,痛覚刺激に特異的な血流増加は,島の前部(disgranular subdivision of insula:Id)でのみみられました。慢性痛でも島の前部に血流増加がみられました。最近,島に投射する視床核としてVMpoの存在が報告されています。

p.105

帯状回を切除された動物は,足への電撃刺激をうまく回避することができず,前帯状回は,痛覚の回避学習に不可欠であると結論されました。ラットの前頭葉内側部破壊で,熱板からの逃走行動に障害が起こったことから,この部位が侵害刺激と逃走行動を統合するところであると推測されました。
帯状回はその扁桃核との結合関係からみて,侵害受容,とくに熱刺激とそれにからむ記憶,刺激の意味づけ,注意,そして,情動行為,自律系活動,逃走行動などの運動コントロールなど広い範囲の機能に関係するのでしょう。

P.107


温冷グリルを使って灼熱感(錯覚)を体験させた時にも前帯状回に血流増加がみられたそうです。侵害刺激が加えられなくても主観的に痛みを体験すれば中枢が働くということで大変興味深い観察です。

p.108

PET研究で,飢えは視床下部と島,そしていくつかの辺縁皮質,傍辺縁皮質(前頭眼窩皮質,前帯状回,傍海馬回,海馬)や視床大脳基底核,小脳などの広範な部位が,満腹では腹内側あるいは後外側前頭皮質,下頭頂小葉などで血流増加がみられました。
渇きの刺激では帯状回,傍海馬回,島,視床扁桃核,中脳などで血流増加がみられました。とくに帯状回(Brodmannの32,24,31野)では,水を飲むと直ちに活動が消失したことから,渇きを意識することに重要なかかわりがあることが示唆されました。

P.112〜113


生理学の教科書では感覚系と運動系とは別々に記述されています。しかし感覚系と運動系が完全に分かれて機能しているわけではありません。

p.116


ものをつまむという一連の運動連鎖の遂行時には,触覚による対象の部分的あるいは全体的な認識(これは指の動きで生じる)が必要で,これがないと次に続く運動行為が不適切になってしまうのだと考えられます。つまり前頂葉例では,触認識の障害が,随伴症状ではなくむしろ拙劣化の理由そのものである可能性が高いのです。

P.138

第一体性感覚野(SⅠ)が運動にどう関与するのか古くは重要な問題でした。体性感覚野を電気刺激すると筋運動が発現します。しかし運動が誘発される刺激閾値は運動野より高く,これは運動野を介する間接的な効果ではないかと考えられました。一方運動野を除去しておいて,SⅠを刺激しても運動はみられることから,ここが運動野とともに運動発現にかかわるとの考えが古くからありました。たしかにSⅠから脊髄に投射がありますがその運動への役割はよく分かっていません。

p.140

SⅠは随意運動発現には必須ではないが,SⅠ刺激により運動野ニューロンに長期増強(long ―term potentiation:LTP)を発生させることが可能であることから,SⅠが運動の新しいスキルの獲得を促進するとの仮説があります。

P.141


補足運動野,運動前野は,運動の習得,あるいは外部の状況によってどういう運動をすべきか,あるいは内定な動機にもとづいて今どういう運動をすべきかというようなことを決める,判断する,そういう場所です。これにたいし運動野は,運動の強さとその方向,つまりスピードのコントロールをしています。ある運動を行うにあたり使う筋の組み合わせをどうするかといったこともここからの指令で決まる仕組みになっています。運動野,運動前野と補足運動野それぞれに感覚の情報が入ってきますが,手で物を操作するような時の体性感覚情報は,低次の運動野に直接入ると考えられます。
もっと上位の中枢,たとえば補足運動野や,その前の前補足運動野には主として視覚の情報が入るようです。このように感覚と運動の中枢は非常に密接に結びついている,それぞれに階層性があり,階層性の高いところ同士,低いところ同士が結びついています。もっとも随意運動も毎日のように繰り返して上手になり,慣れてしまうと,もう大脳皮質は使わないで,たとえば大脳基底核や小脳に情報が蓄えられて,ほとんど機械的にこれを行うというふうに置き換えられていくと考えられます。

P.142〜143


幼少時に視覚を失った人について,点字読みタスクあるいは点字ではない蝕識別テスト遂行中に,PETにより視覚野の活動を測定したところ,両側の一次,二次視覚野で血流量増加がみられました。

p.204


点字を読んでいる時,視覚イメージが浮かんだという説明はあたらないようです。なぜならこれらの大部分の被検者は早期に視覚を失っていますし,なかには先天盲の人も含まれていて,同じ結果が得られたからです。盲人の視覚野が体性感覚刺激で興奮するという報告はこのほかにもあります。

p.204〜205


盲人が点字を読む時に活動する脳部位を調べた報告があります。当然広範囲にわたっていますが,点字読みを習得した盲人では,晴眼者で視覚の形状識別に使われる腹側後頭領域(一次視覚野,紡錘状回などを含む)が点字読みその他の蝕識別に使われること,また晴眼者で活動する第二体性感覚野は活動しないことが指摘されています。

p.205


脊髄から視床への主要伝道路は2つあります。①後索―内側毛帯系(dorsal column‐medial lemniscal:DC‐LM),②前あるいは外側脊髄視床路(anterior or lateral spinothalamic tract:ST)です。このほかに外側頸髄核路―内側毛帯系(lateral cervical nuclei tract‐medial lemniscus system:LCNT)もありますが,ヒトでは目立ちません。体性感覚はこのほか,小脳核・脳幹網様体・前庭複合体やZ核などを介しても視床に到達します。

p.220〜222