『言語と脳』抜粋(2)

杉下守弘:『言語と脳』紀伊国屋書店,1985



(p.11,12)
 ピポクラテス集典はさらにつづけて、心臓が精神の座でないことを、次のように説明している。

「ある人びとは、われわれは心臓でものを考えるという。また、苦痛を感じたり悲しんだりするのも心臓であるという。しかし、これは真実ではない。心臓が横隔膜のように、いやそれ以上に振動するのは次の理由によるにすぎない。すなわち、心臓には全身から脈管が延びてきており、それらを心臓が総括しているので、人体に苦痛や緊張がくると、それを感じるのである。
 身体は苦痛を被るときは、戦慄し引きしまるし、歓喜したときもまた同様の状態を生じる。これが必ず起こることなのであるが、その理由は心臓と横隔膜がもっともよく感ずるからである。とはいえ、心臓も横隔膜も知性にはかかわっておらず、これらすべての原因は脳なのである」(「神聖病について」第二0節)。