大川秀樹:慢性期失語症に対するピラセタムの投与経験.高次脳機能研究25:297−305,2005

要旨:ピラセタムは脳血管障害後の失語症に対し急性期に言語療法と併用することにより効果があり、現在欧米では広く使われている医薬品である。
 しかし発症から3年以上を経過した慢性期失語症者に対しては現在のところ言語療法も含め有効な治療法はないとされている。今回このような慢性期失語症患者に対しピラセタムを投与したところ、ある程度の回復が認められた症例を経験したので報告する。



はじめに

脳血管障害による失語症に対して確立された治療法は、現在のところ言語療法のみである(Goodglassら 1983)。
ピラセタム(商品名:ミオカーム)は欧米では急性期から言語療法をしながら投与すれば失語症に対して治療効果が認められると報告されている(De Deynら1997、Herrschaft 1988、Huber 1999、Plattら 1992)。また発症1カ月から3年までの慢性期の失語症者に対しても併用により言語療法の治療効果が得られるとされている(Enderbyら 1994、Huberら 1997、Huber 1999、Plattら 1992、Poeckら 1993)が、3年以上を経過した症例については知見が得られていない。
 今回、失語症発症より3年以上を経過し言語療法を行っていない脳血管患者に対してピラセタムを投与したところ、ある程度の症状改善が得られた症例を経験したので報告する。
 なお症例の選択にあたってはADLはある程度自立しており、コミュニケーション障害が主体で痴呆などの認知障害がないことに留意した。
 また薬剤の投与に関しては、その目的、投与方法、考えられる副作用を患者もしくはその家族に説明し同意を得た。さらに4週ごとに本人および家族から服薬継続の可否を確認した。