加藤元一郎:第4章:記憶障害と健忘症のリハビリテーションはここまで変わった.高次脳機能障害の臨床はここまで変わった,2002


1.健忘症候群
・障害―エピソード記憶
・相対的に保持―短期記憶、意味記憶、潜在記憶
・定義(p.80)
(※定義の問題点としては正常と異常のカットオフ得点が決定されていないこと)
1)知能が正常(知能検査の成績が正常範囲内).
2)スパンは正常(基本的な注意機能と短期記憶が正常).
3)重篤で持続的な事実や出来事についての情報の獲得障害(学習障害ないしは前向性健忘).
4)発症以前に蓄えられた情報の想起障害(逆行性健忘).
 潜在記憶の保持(プライミング、手続き記憶などの保持).
・健忘症候群の臨床症状
前向性健忘逆行性健忘失見当識、作話
加わることあり→病識欠如、自発性の欠乏、人格変化
前向性健忘学習障害
1)かこの事実とその時間的空間的定位(文脈)のどちらかを想起できないかとみることが重要
 例として、コルサコフ症候群:事実や項目の記憶と比較して、時間的定位に関する情報、情報源に関する情報、空間的な情報、指示されたモダリテイなどのいわゆる文脈的記憶がより重篤に障害される。
2)記銘後の干渉により、健忘が増強される
3)感情的刻印の強い出来事は比較的想起しやすい
・健忘に対するリハ
記憶障害に対する再組織化、もしくは代償法を用いることが多い。
エピソード記憶の障害、刺激法は有効でない。
外的なキュー、内的な記憶戦略を用いた代償法が有効とされる。
学習法の改善による認知訓練:誤りなし学習、領域特異的知識の獲得訓練
2.ワーキングメモリ
・言語性短期記憶
 言語情報の保持、音声的なリハーサルを行う。
 音韻ループ、音韻ストア:左下頭頂葉小葉
 リハーサル過程ないし音韻性出力バッファー:ブローカ領域および運動前野
 音韻ループは成人の言語理解には役割はほぼない。新しい音韻や文法の獲得に重要。言語獲得のためのメカニズムとして進化したとされる。
・視覚性短期記憶
 視空間的記銘メモ:イメージ表象の保持と操作。高次視知覚(high―level prcessing)というより広範なシステムの一部と考えられる。
 責任病巣(示唆されるのみで明確な見解なし)
視空間性の位置の記憶障害:右頭頂葉後下部から前頭前野に広がる脳領域
 視覚形態の短期記憶障害:左半球後頭頭頂葉領域
・中央実行系もしくは中枢制御系
 単一の機能ではなく選択的注意、同時遂行機能、長期記憶の活性化などの下位機能からなる可能性あり。
 前頭前野と関連あり。
・学習、記憶の想起におけるワーキングメモリの役割
 エピソード記憶課題にて前頭前野下部の賦活→記憶化や検索ではなく処理されるべき記憶の材料の正確(音韻情報、視空間情報、意味情報)と関連、出来事や項目の属性へのアクセスやその保持・評価を行う活動と関連
 エピソード記憶の検索過程にて、前頭葉外側部、前頭葉前部の賦活→材料特異的ではない。ワーキングメモリの操作(制御)過程を反映
・Baddeley(1993)
ワーキングメモリの用語はWorking attentionの方がふさわしい。
 中央実行系は注意によって焦点を当てられた情報の操作や制御に関連するため→注意の制御を担っているという捉え方のほうが適切となる。