加我君考:聴覚大脳インプラントは可能か ―聴皮質の解剖と電気生理の視点から―.耳喉頭頸75:194-200,2005(増刊号)


(p.197)
このBrodmannの挙げる一見極めて奇異な事実,すなわちTC領がヒトを除き,サルを含む他の全ての動物に欠如するという主張に対して,EconomoとKoskinasは,これは驚くべきことではなく,「恐らくこれはヒトにおける聴覚作用が特に人間においてのみ特殊な発育を示す言語および音楽能力のような複雑な過程と極めて密接な関係を有し,したがって聴覚領域(聴覚印象野)において行われる作用よりも,はるかに複雑な結果に起因するものではなかろうか」と想像している。すなわち,「動物におけるような未洗練な粗野な基礎的聴覚感受作用には,ヒトの聴覚領域(TC)にみるような皮質構造の顆粒化性分化(granulöse differenzierung)を必要としないもので,これはヒトのような聴覚作用とこれに関連する諸機能の複雑化とともに初めて必要となるものであろう」という。


(p.199)
しかし,多くの解決しなければならない難問が待ち受けている。すなわち,上述したように聴皮質を刺激する興奮と抑制の両システムが同時に刺激されること,さらにPenfieldによれば,それまでの聴覚体験のメモリーが刺激されて意識の上にのぼってくることである。人口内耳や脳幹インプラントが聴覚の中枢伝導路を末端から刺激したのに対し,その終点である聴皮質を刺激するからである。