宇野彰:第7章:発達神経心理学とそのリハビリテーションはここまで変わった.高次脳機能障害の臨床はここまで変わった,2002


発達障害の分類、症候群から特異的障害へと変化しつつある
例)
微細脳機能障害(MBD:Minimal Brain Dysfunction)→
 学習障害(LD:医学ではLearning Disorder、教育ではLearning Disability)
 注意欠陥多動性障害ADHD:Attention Deficit with Hyperactive Disorder)
 発達性協調運動障害(DCD:Developmental Coordination Disorder)

学習障害の定義
1)学習障害の定義(文部科学省
 学習障害とは,基本的には,全般的な知的発達に遅れはないが,聞く,話す,読む,書く,計算する,推論する能力のうち特定のものの習得と使用に著しい困難を示す,様々な状態を指すものである.
2)学習能力の特異的発達障害(Specitic Developmental Disorders of Schoolatic Skills)(ICD‐10)
特異的読字障害(Specific reading disorder)
特異的書字障害(Specific spelling disorder)
計算能力の特異的発達障害(Specific disorder of arithmetical skills)
学習能力の混合性障害(Mixed disorder of scholastic skills)
学習能力のその他の障害(Other)
特定不能の学習能力の発達障害(Unspecifited)
3)学習障害(Leading Disorders)(DSM‐Ⅳ)
読字障害(Reading Disorders)
算数障害(Mathematics Disorders)
書字表出障害(Disorders of Written Expression)
特定不能学習障害(Learning Disorder Not Otherwise Specifited)

ADHDの定義
注意欠陥/多動性障害(Attention‐Deficit/Hyperacivty Disorder)かのどちらか:
以下の不注意の症状のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上続いたことがあり,その程度は不適応的で,発達の水準に相応しないもの:
不注意
a)学業,仕事,またはその他の活動において,しばしば綿密に注意することができない,または不注意な過ちをおかす.
b)課題または遊びの活動で注意を持続することがしばしば困難である.
c)直接話しかけられた時にしばしば聞いていないように見える.
d)しばしば指示に従えず,学業,用事,または職場での義務をやり遂げることができない(反抗的な行動または支持を理解できないためではなく).
e)課題や活動を順序立てることがしばしば困難である.
f)(学業は宿題のような)精神的努力の持続を要する課題に従事することをしばしば避ける,嫌う,またはいやいや行う.
g)(例えばおもちゃ,学校の宿題,鉛筆,本,道具など)課題や活動に必要なものをしばしばなくす.
h)しばしば外からの刺激によって容易に注意をそらされる.
i)しばしば毎日の活動を忘れてしまう.
 以下の多動性―衝動性の状態のうち6つ(またはそれ以上)が少なくとも6ヶ月以上持続したことがあり,その程度は不適応的で,発達水準に相応しない:
多動性
a)しばしば手足をそわそわ動かし,またはいすの上でもじもじする.
b)しばしば教室や,その他,座っていることを要求される状況で席を離れる.
c)しばしば,不適切な状況で,余計に走り回ったり高い所へ上がったりする(青年または成人では落ち着かない感じの自覚のみに限られるかも知れない).
d)しばしば静かに遊んだり余暇活動につくことができない.
e)しばしば“じっとしていない”またはまるで“エンジンで動かされているように”行動する.
f)しばしばしゃべりすぎる.
衝動性
g)しばしば質問が終わる前にだし抜けに答えてしまう.
h)しばしば順番を待つことが困難である.
i)しばしば他人を妨害し,邪魔する(例えば,会話やゲームに干渉する).

・発達性協調運動障害(DSM‐Ⅳ)
Developmental Coordination Disorder
 運動の協調が日常の活動における行為が,その人の暦年齢や測定された知能に応じて期待されるものより十分に下手である.これは運動発達の里程標の著名な遅れ(例:歩くこと,這うこと座ること).物を落すこと,“不器用”,スポーツが下手,書字が下手などで明らかになるかもしれない.

自閉症の定義(DSM‐Ⅳ)
Autistic Disorder
A.1),2),3)から合計6つ(またはそれ以上),うち少なくとも1)から2つ,2)と3)から1つずつの項目を含む.
1)対人的相互反応における質的な障害で以下の少なくとも2つによって明らかになる:
a)目と目で見つめ合う,顔の表現,体の姿勢,身振りなど,対人的相互反応を調節する多彩な非言語性行動の使用の著名な障害.
b)発達の水準に相応した仲間関係をつくることの失敗.
c)楽しみ,興味,成し遂げたものを他人と共有すること(例:興味あるものを見せる,もって来る,指さす)を自発的に求めることの欠如.
d)対人的または情緒的相互性の欠如.
2)以下のうち少なくとも1つによって示される意志伝達の質的な障害:
a)話し言葉の発達の遅れまたは完全な欠如(身振りや物まねのような代わりの意志伝達の仕方により補おうという努力を伴わない)
b)十分会話のある者では,他人と会話を開始し継続する能力の著名な障害.
c)常同的で反復的な言語の使用または独特な言語.
d)発達水準に相応した,変化に富んだ自発的なごっこ遊びや社会性を持った物まね遊びの欠如.
3)行動,興味および活動の限定され,反復的で常同的で様式で,以下の少なくとも1つによって明らかになる:
a)強度または対象において異常なほど,情動的で限定された型の,1つまたはいくつかの興味だけに熱中すること.
b)特定の,機能的でない習慣や儀式にかたくなにこだわるのが明らかである.
c)常同的で反復的な衒奇的運動(例えば,手や指をばたばたさせたりねじ曲げる.または複雑な全身の動き).
d)物体の一部に持続的に熱中する.
B.3歳以前に始まる,以下の領域の少なくとも1つにおける機能の遅れまたは異常:1)対人相互作用,2)対人的意志伝達に用いられる言語,または3)象徴的または想像的遊び.

・発達性読み書き障害(Developmental dyslexia)
学習障害の中核をなす疾患群
1)全般的知能が正常
2)読み書きの到達度が健常児童と比べて有意に低いこと(5%タイル値または−2SD以下)
3)普通の方法で練習しても学習効率が非常に低いこと
4)他の言語機能が正常に発達していること

・発達性読み書き障害の障害メカニズム
1)音韻認識能力の障害説
英語圏で有力
 Phoneme deletion検査(例、cutのcを除くとすると,何と音読するか?)
 韻律同定課題などで計測
2)視覚情報処理障害説
 日本では視覚情報処理障害説で説明できる症例報告多い
 音読時の眼球運動の異常や音読時の読み誤りパターンから推定

3)大細胞層(Magnocelluar)説
 大細胞層(Magnocelluar)1,2層にある。
 小細胞層(Parrocellular)3〜6層にある。
 両方とも内側膝状体、外側膝状体にある。
 視覚・聴覚伝導路の障害に異常があるとする。

・脳血流量
1)後天的大脳半球損傷例と異なる
Louら(1984):
発達性「失語」症児→両側シルヴィウス溝周辺の血流量低下
 注意障害を伴う群→前頭葉白質もしくは尾状核領域の血流量低下
小枝ら(1992):
 右大脳が優位半球と考えられる発達性「失読失書」例→右前頭葉血流量低下
 発達性ゲルストマン症候群→左弁蓋部、右前頭葉血流量低下
 発達性「失行」症→右前頭葉血流量低下

2)後天的大脳半球損傷例と類似。
宇野ら(1997)、kaneko et al(1998)、宇野ら(1998)、春原ら(1999)
 「読み書き」障害児では角回を含む領域
 「特異的漢字書字障害」児→左側頭葉と頭頂葉を含む領域や後頭葉を含む領域
 「言語性意味理解障害」児→左側頭葉から頭頂葉を含む領域

課題実施中の局所脳血流量
 意味カテゴリに分類する課題→読字困難群は左半球の方が右半球より血流量が多い傾向が健常群より強い。
 線分角度判断課題(右半球の機能に敏感):大脳の前部と後部との差が健常者より減少