鈴木淳一,小林武夫:耳科学―難聴に挑む―.中央公論新社,2001

<おまけ>


「耳介のもう一つの作用は放熱作用である。ウサギやフェネックギツネ(北アメリカの砂漠にする)は耳介が大きい。耳介には血管が豊富にあり、流れる血液は耳介の両面から冷やされる。アフリカ象は大きな耳介をもち、これを団扇のようにあおいで冷やす。寒冷地では耳介があまり突き出していることは有利でなく、寒いところにすむ動物の耳介ほど小さくなっている」
(p.14)

「原始の動物はかつて水中で生活していたので、体のバランスをとるための器官が必要であった。その器官がのちに耳の源となるのである。たとえば、一番原始的なクラゲには平衡胞という器官がみられる。この器官は、平衡石という石灰砂が感覚細胞の毛の上にのっていて、クラゲが水の流れで傾くと、感覚細胞を刺激する。この毛をもつ感覚細胞という単純なセンサーは、高等動物になっても原理的には同じである。魚は水の流れや、近づいてくる他の水中動物の水圧を感知するために、魚体の両側に側線器を発達させた。その一部が頭蓋骨の中に取り込まれて平衡感覚器となり、一部がふくれて壺嚢(lagena)という聴覚器の原基をつくったと考えられる」
(p.31)

「コウモリでは聴覚はさらに進化したものとなっている。超音波領域の高周波音をみずから発し、その反射音を感知して、視覚を使うことなく自分の位置を認識したり、遠方の獲物の存在を感知するのである。これをエコロケーションという。発射する音は周波数一定の超音波や、周波数が変化する波(FM波)で、対象物からの反射音を分析し、その大きさと速度を知るのである。一メートル先を飛んでいる二ミリの虫を認識できるという」
(p.33)


「手話は中世イタリアのベネディクト派修道士が沈黙の修行をしているときに、お互いの意志を通じ合わせるためにつくられ、そこから派生したという」
(p.183)